後遺障害逸失利益とは、被害者が後遺障害を残し、労働能力が減少したことによる収入額の減少のことをいいます。逸失利益は症状固定時以降に認められるもので(症状固定の前までは休業損害として算定される)、算定方式は以下のとおりです。
後遺障害逸失利益における基礎収入は、基本的には、休業損害における基礎収入と同様に、実際の収入額によるのが原則です。
しかし、休業損害は症状固定時までの期間の収入減であるため、実際の収入額を基礎収入とすることが実態に合いますが、後遺障害逸失利益は将来の長期間にわたる所得の減少の問題ですから、事故当時の収入額を基礎収入とすることが相当でない場合もあります(例えば、若年の労働者)。
各後遺障害の労働能力喪失率は、自賠法施行令別表に定められています(→後遺障害等級表・労働能力喪失率)。
保険実務と裁判実務とでは、最終的に認定される労働能力喪失率は、異なり得ます。
すなわち、保険実務では、公平で迅速な処理のために、同じ後遺障害であれば被害者の個性を考慮することなく、自賠法施行令別表に定められた労働能力喪失率が機械的に使われますが、他方、裁判実務では、当該事故の個別性が重視されますから、被害者の障害の部位・程度、被害者の性別・年齢・職業、事故前後の就労状況、減収の程度等により総合的に判断されますので、裁判では自賠法施行令別表に定められたものと異なる労働能力喪失率が認定される可能性があります。
後遺障害逸失利益は、本来であればもらえたはずの収入が、後遺障害が残存してしまったために将来において減り続けるであろうと見込まれる減収分の合計額であり、一時金として受け取ることになります。
本来であれば将来の毎月の給与(の減額分)として受け取る金額を、現時点に置いて損害賠償請求により一時金として受け取るわけですから、中間利息を控除する必要があります。
たとえば、将来的に減少する収入額が合計で1000万円だからといって現時点で1000万円を受け取ってしまうと、利息が付いて将来的には1000万円よりも多い金額を受け取ってしまうことになります。
こういった事態を回避するため、将来の1000万円を現時点の価値に引き直すことが必要であり、そのための算定式がライプニッツ係数と呼ばれるものです。
ライプニッツ係数は、後述のとおり、基本的には、症状固定時から67歳までの労働能力喪失期間によって決まっています。
労働能力喪失期間は、基本的には、症状固定日から67歳までの期間です。
もっとも、必ずしも症状固定日からスタートではなく、未就労者の場合には18歳から計算し、また大学進学等によりそれ以後の就労を前提とする場合は、大学等卒業時から計算します。
また、後遺障害が残存しても、軽微なものであれば時間の経過に伴って労働能力が回復する可能性があることから、労働能力喪失期間が限定される場合もあります。例えば、いわゆる「むち打ち症」の場合、症状の程度によって、2年から10年の間で労働能力喪失期間を定める裁判例が多いです。