ここでいう「治療費」には、通院先治療機関の受診料・治療費だけでなく、医師からの処方箋に基づいて購入した薬代も含まれます。
医師の指示によらずに、独自の判断で購入した薬や湿布等については、医学的効果の有無等により、薬代として認められない場合があります。
高額な治療費の伴う治療に関しては、そもそもその治療がなぜ高額になっているのかを検討する必要があります。
というのは、交通事故によって怪我をした場合でも、他の場合によって生じた怪我と同様に、健康保険が適用されますが(この場合、健康保険組合等が、負担した治療費を後で加害者に求償することになります)、一般的に、どういうわけか交通事故の場合には保険が適用されないと誤解している方が多く、また、医師も診療報酬の点から健康保険の適用を回避しようとする傾向がありますので(中には、「交通事故の場合には保険は適用されません」と説明する病院もあるようです)、自由診療で治療をすることも多いようです。
健康保険には報酬基準があり、また関係機関の監査もありますので、請求可能な治療費には上限がありますが、他方、自由診療の場合には、そのような基準はありませんので、治療費が多額にのぼるケースも出てきます。もっとも、医師が患者(被害者)に対して、いくらの治療費を請求するかという点については、ある程度自由な裁量で決定できますが、それでも常識的な金額に納める必要があります。一般的には、保険適用診療の2倍程度が限度でしょう。
被害者の方の中には、「高い治療費でも、どうせ加害者や保険会社が後で支払ってくれるんだから、いくらかかったっていいじゃないか」と思う方がいらっしゃるかもしれません。しかし、怪我の状況や治療の必要性・相当性という観点からみて、事故で負った怪我と相当因果関係のある支出(治療費)を超える部分に関しては、加害者や保険会社が負担することにはならず、被害者自身の負担となってしまいます。
そうならないためにも、治療を受ける前に病院の窓口で「保険を適用して下さい」と念を押すか、自由診療になっても、その治療費を被害者自身がチェックする必要があります。
過剰診療というのは、怪我の状況からして必要性のない治療のことです。また濃厚診療とは、必要以上に丁寧な治療を行うことです。
いずれも、医学的にみて必要性・相当性を欠く(相当因果関係の認められない)治療の場合には、上記と同様、余分にかかった治療費部分は被害者自身の負担となってしまう可能性がありますので、注意が必要です。
鍼灸やマッサージをすると痛みや気持ちが和らぐことがあると思います。「湯治」という言葉があるように、温泉に入った場合も同様です。
しかし、治療費に関しては、基本的には西洋医学的観点から効果のあると認められる治療法が、実務上、治療費の支給対象となっております。
もっとも、鍼灸やマッサージのような東洋医学的治療に関しても、効果が全く認められないとはいえないことから、これらの治療が、被害者の症状により有効かつ相当な場合、特に医師の指示に基づいて行った場合には、これらの費用も治療費として認められる可能性があります。逆に、医師の指示なく、被害者の独自の判断で鍼灸やマッサージを受けても、これらの費用は自己負担となる可能性がありますので、注意が必要です。
入院の際、他の患者のいる部屋ではなく、少し割高(1日あたり数万円)ですが、1人部屋や少人数の特別室を使用して、静かに治療に集中したいという方もいらっしゃると思います。
しかし、通常の部屋と特別室とでは特に治療内容として変わりません。
この点、保険・裁判実務上は、医師が特別室の使用を指示した場合や他に特別の事情(例えば、症状が重篤な場合、一般の部屋に空室がなく特別室を使用することがやむを得なかった場合など)があれば、特別室使用料も賠償の対象となるとされています。
症状固定に至った場合には、もはや医学的には治療を継続しても症状にあまり影響はありませんので、症状固定時以降に通院しても、それにかかる治療費は原則として支給されません(→「症状固定とは」)。
もっとも、症状固定後は治療費は一切出ないかというと、例外もあります。例えば、事故によって足を切断した方の場合は、将来、定期的に義足を作成するために入・通院が必要ですので、それに要する治療費は必要でしょうし、症状の内容・程度によっては症状固定後のリハビリテーションの費用も賠償の対象となる損害として認められる可能性があります。