脳の器質的損傷(※傷など)を伴わない精神障害(以下「非器質性精神障害」といいます。)の後遺障害が存しているというためには、以下の(ア)精神症状のうち1つ以上の精神症状を残し、かつ、(イ)能力に関する判断項目(以下、単に「判断項目」といいます。)のうち1つ以上の能力について障害が認められることを要することとされております。
(ア)精神症状 |
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(イ)能力に関する判断項目 |
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精神症状については、1.非器質性精神障害(ア)精神症状の(1)~(6)の6つの症状の有無等に着目することとされていますが、その内容は以下のとおりです。
精神症状の項目 | 具体的症状 |
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(1)抑うつ状態 | 持続するうつ気分(悲しい、寂しい、憂うつである、希望がない、絶望的である等)、何をするのもおっくうになる(おっくう感)、それまで楽しかったことに対して楽しいという感情がなくなる、気が進まないなどの状態です。 |
(2)不安の状態 | 全般的不安や恐怖、心気症、強迫など強い不安が続き、強い苦悩を示す状態です。 |
(3)意欲低下の状態 | すべてのことに対して関心が湧かず、自発性が乏しくなる、自ら積極的に行動せず、行動を起こしても長続きしない。口数も少なくなり、日常生活上の身の回りのことにも無精となる状態です。 |
(4)慢性化した幻覚・妄想性の状態 | 自分に対する噂や悪口あるいは命令が聞こえる等実際には存在しないものを知覚体験すること(幻覚)、自分が他者から害を加えられている、食べ物や薬に毒が入っている、自分は特別な能力を持っている等内容が間違っており、確信が異常に強く、訂正不可能でありその人個人だけ限定された意味付け(妄想)などの幻覚、妄想を持続的に示す状態です。 |
(5)記憶又は知的能力の障害 | 非器質性の記憶障害としては、解離性(心因性)健忘がある。自分が誰であり、どんな生活史を持っているかをすっかり忘れてしまう全生活史健忘や生活史の中の一定の時期や出来事のことを思い出せない状態です。 非器質性の知的能力の障害としては、解離性(心因性)障害の場合があります。日常身辺生活は普通にしているのに改めて質問すると、自分の名前を答えられない、「年齢は3つ」、「1+1は3」のように的外れの回答をするような状態(ガンザー症候群、仮性痴呆)です。 |
(6)その他の障害(衝動性の障害、不定愁訴など) | その他の障害には、上記(1)から(5)に分類できない症状、多動(落ち着きの無さ)、衝動行動、徘徊、身体的な自覚症状や不定愁訴などがあります。 |
非器質性精神障害については、1.非器質性精神障害(イ)能力に関する判断項目の(1)~(8)の8つの能力(判断項目)について、能力の有無及び必要となる助言・援助の程度に着目し、評価を行う必要があります。その際の要点は以下のとおりです。
判断項目 | 評価を行う際の要点 |
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(1)身辺日常生活 | 入浴をすることや更衣をすることなど清潔保持を適切にすることができるか、規則的に十分な食事をすることができるかについて判定するものです。 なお、食事・入浴・更衣以外の動作については、特筆すべき事項がある場合には加味して判定を行います。 |
(2)仕事・生活に積極性・関心を持つこと | 仕事の内容、職場での生活や働くことそのもの、世の中の出来事、テレビ、娯楽等の日常生活等に対する意欲や関心があるか否かについて判定するものです。 |
(3)通勤・勤務時間の遵守 | 規則的な通勤や出勤時間等約束時間の遵守が可能かどうかについて判定するものです。 |
(4)普通に作業を持続すること | 就業規則に則った就労が可能かどうか、普通の集中力・持続力をもって業務を遂行できるかどうかについて判定するものです。 |
(5)他人との意思伝達 | 職場において上司・同僚等に対して発言を自主的にできるか等他人とのコミュニケーションが適切にできるかを判定するものです。 |
(6)対人関係・協調性 | 職場において上司・同僚と円滑な共同作業、社会的行動ができるかどうか等について判定するものです。 |
(7)身辺の安全保持、危機の回避 | 職場における危険等から適切に身を守れるかどうかを判定するものです。 |
(8)困難・失敗への対応 | 職場において新たな業務上のストレスを受けたとき、ひどく緊張したり、混乱することなく対処できるか等どの程度適切に対応できるかということを判断するものです。 |
分類 | 認定方法 |
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(ア)就労している者又は就労の意欲のある者 | 現に就労している者又は就労の意欲はあるものの就労はしていない者については、1.非器質性精神障害(ア)精神症状の精神症状のいずれか1つ以上が認められる場合に、1.非器質性精神障害(イ)能力に関する判断項目の能力に関する8つの判断項目の各々について、その有無及び助言・援助の程度(「時に」又は「しばしば」必要)により障害等級を認定すること。 |
(イ)就労意欲の低下又は欠落により就労していない者 | 就労意欲の低下又は欠落により就労していない者については、身辺日常生活が可能である場合に、1.非器質性精神障害(イ)能力に関する判断項目の(1)身辺日常生活の支障の程度により認定すること。 なお、「就労意欲の低下又は欠落により就労していない者」とは、職種に関係なく就労意欲の低下又は欠落が認められる者をいい、特定の職種について「就労の意欲のある者」については上記(ア)に該当する。 |
注)各能力の低下を判断する際の要点については、3.能力に関する判断項目を参照のこと。
非器質性精神障害は、次の3段階に区分して認定すること。
後遺障害 | 後遺障害の具体的内容 | 等級 |
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通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの |
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第9級 |
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの |
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第12級 |
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの | 判断項目の1つ以上について時に助言・援助が必要と判断される障害を残しているものが該当する。 (例)非器質性精神障害のため、「職種制限は認められないが、就労に当たり多少の配慮が必要である」場合 |
第14級 |
重い症状を有している者(判断項目のうち(1)の能力が失われている者又は判断項目のうち(2)~(8)のいずれか2つ以上の能力が失われている者)については、非器質性精神障害の特質上症状の改善が見込まれることから、症状に大きな改善が認められない状態に一時的に達した場合であっても、原則として療養を継続する必要があります。
ただし、療養を継続して十分な治療を行ってもなお症状に改善の見込みがないと判断され、症状が固定しているときには、治癒の状態にあるものとし、障害等級を認定することになります。なお、その場合の障害等級の認定は本認定基準によらずに、症状に応じて個別に認定されることになります。
業務による心理的負荷を原因とする非器質性精神障害は、業務による心理的負荷を取り除き、適切な治療を行えば、多くの場合概ね半年~1年、長くても2~3年の治療により完治するのが一般的ですが、非常にまれに「持続的な人格変化」を認めるという重篤な症状が残存することがあり、これが労災事故の場合には、本省(厚生労働省)の意向を踏まえて後遺障害等級が認定されます。
「人格変化」を認める場合とは、以下の(ア)~(エ)の要件を満たすことが必要とされており、こうした状態はほとんど永続的に継続するものと考えられています。
非器質性精神障害の後遺障害の場合、症状が固定する時期にあっても、症状や能力低下に変動がみられることがありますが、その場合には良好な場合のみ、あるいは悪化した場合のみをとらえて判断することなく、療養中の状態から判断して障害の幅を踏まえて判断するのが適当とされています。