交通事故に遭っても、損害賠償請求をしなければ、請求権は時効にかかって消滅してしまいます。以下のとおり、時効は、誰に対してどのような請求をするかによって、時効期間は異なります。
加害者の自賠責保険会社に対して被害者請求をする場合でも、以下のとおり、いつ発生した事故なのかによって時効の期間が変わってきます。
傷害・死亡の場合………事故日から2年
後遺障害が残った場合…症状固定日から2年
傷害・死亡の場合………事故日から3年
後遺障害が残った場合…症状固定日から3年
これは法的には不法行為に基づく損害賠償請求ですので、基本的には、「損害及び加害者を知った時」(民法724条前段)から3年で時効ですが、仮に、事故から3年以内に「損害及び加害者」がわからなくても、事故日から20年が経つと時効によって権利が消滅してしまいます(同条後段)。
もっとも、後遺障害が残った場合には、後遺障害に関する損害(後遺傷害慰謝料、後遺障害逸失利益等)については、症状固定日から上記の時効がスタートします。
加害者に対して損害賠償請求をしないまま上記の時効期間が経過してしまうと、権利は消滅してしまい、その結果、加害者や保険会社から損害賠償を全く受けることができなくなります。「3年」というと長く感じるかもしれませんが、意外とあっという間です。
時効期間が経過する前にどうすれば時効が止まるかというと、まず簡単にできる方法としては、3年が経過する前に加害者に対して内容証明郵便で損害賠償請求をすることが考えられます。この行為は民法上の「催告」にあたり、時効の完成を6か月間だけ延長することができますが、この6か月が経過する前に、訴訟提起などの法的手続を執って(※もう1度、内容証明郵便を送付してもダメです)、公的に損害賠償請求をする意思を明示することが必要になります(民法153条)。
他には、加害者または加害者側の任意保険会社が自己の責任を認めるような言動をとった場合、具体的には、加害者や保険会社が、治療費を被害者や直接医療機関に支払ったり、被害者に対して示談金額を提示してきた場合、これらの言動は民法上の「承認」(民法147条3号・156条)に当たりますから、その時点から、時効が改めてスタートします。そのため、加害者側の「承認」に当たる言動を証拠に残す必要があります。
以上のとおり、時効が完成してしまうと、原則として損害賠償請求はできなくなります。
しかし、時効期間が完成した後でも、加害者が「承認」といえるような言動をした場合には、加害者は信義則上、時効を援用することが許されない結果、被害者はなおも加害者に対して損害賠償請求をすることができることになります。これは、加害者が、時効完成を知った上で承認をした場合だけでなく、時効完成を知らずに承認をした場合でも同様です。
要は、「加害者は、時効が完成した後とはいえ、賠償金を支払う素振りを見せたのなら、ちゃんと損害賠償金を支払いなさい」ということです。
このような時効完成後の場面では、加害者にとっては、(支払う意思がないのであれば)被害者に期待をさせるような安易な態度をとらないよう注意することが必要ですし、逆に被害者からすると、加害者が事故の責任を認めるような態度をとったらそこを見逃さず証拠化することが大事になってきます。